| 岩手の生協運動の総路線 |
第五次中期計画づくりの中で、「二十一世紀」の議論を深めました。二十世紀の半分以上は「戦争の世紀」でしたから、「戦争の二十世紀から平和の二十一世紀へ」が世界中の人々の願いでした。しかし、二十世紀末のソ連や東欧諸国の「社会主義」の崩壊によって、アメリカ一極、資本主義(自由主義)一極体制の中で、「九・一一テロ」が発生しました。アメリカの覇権主義・単独主義が国連を無視する形で、アフガン・イラクへの侵略戦争が強行され、かつてないイラク戦争反対を叫ぶ「平和の二十一世紀」を願う人々の怒りが広がりました。
アメリカの覇権主義・軍産複合・金融(カジノ)資本主義が急速に支配的な力を増す中で、日本では小泉・竹中体制で「アメリカの新自由主義(カジノ資本主義)を日本でも推進する」路線が急速に進みました。「市場原理主義」に基づく「規制緩和・構造改革」「官から民へ・自己責任」がマスコミも動員して日本中を席巻する勢いでした。
私たちは、こうした内外の急激な政治的・経済的変化をいかに捉えるべきかを議論する中で、どのような「視座」で分析するかを深めました。その第一は「協同組合運動の視座」でなければならないということでした。特に一九九五年の「協同組合のアイデンティティに関するICAメッセージ」で明記された「価値」、歴史的に重視してきた「公正・公平・平等・人権・民主主義・平和」などのモノサシで、こうした「グローバリゼーション」といわれる変化を深めることです。
この視座からは、ワーキングプアといわれる貧困層の増大、それを急速に拡大した労働法制の規制緩和、輸出産業や金融・投機で稼ぐ「勝ち組」と彼らへ優遇税制、一方での社会保障制度の連続的改悪や増税、第一次産業の衰退や中小零細企業や地方経済の衰退、「三位一体」の名による地方切捨てなどによる「格差拡大」などの「政策結果」が明らかになりました。また、「ブッシュ・小泉関係」によるイラク戦争支持と自衛隊派遣、小泉首相の靖国参拝に刺激された「靖国派」の影響増大など、それまでの「有事法制」「新ガイドライン法」を実践する自衛隊とアメリカ軍との一体化など、平和に対する危機も急速に広がりました。
もう一つの視座は、組合員のくらしの変化・悪化の実際を深め、そのくらしの「基盤」である地域社会・地域経済の危機的変化、地域の人々のコミュニティの崩壊状況、諸団体・諸運動組織からの生協への期待と要求は何か、という視座から分析することです。
私たちはこうした全体的状況を分析し、「四つ(くらし・地域・平和・経営)の危機」として捉え、この危機に真正面から取り組む生協運動、そのための「主体形成」をこの中期計画の中心的課題に位置づけました。
第一の柱は、「地産地消・暮らし防衛・平和・子育て・福祉・環境・文化・民主主義」など、多くの組合員の「経済的・社会的・文化的ニーズと願い」を実現する運動と事業の一体的展開。わが国の七〇~八〇年代の生協運動の飛躍的発展は、家庭班を中心にした組合員の「出資・利用・運営参加」の強化、くらしを取り巻く諸問題を学習し、広い意味での組合員教育の重視した「大衆運動」の展開でした。新しい貧困と格差社会の広がり、地域社会・経済の変化と悪化の中で、今こそこうした歴史を学び、大衆的運動に積極的に取り組むことを生協運動のミッションとして位置づけることです。そして、その実践は自治体を含む地域の諸団体、諸運動との連帯・ネットワークにより、より幅広い運動として展開するという路線です。
第二の柱はこうした生協運動の着実な前進を保障する「主体形成」です。これは組合員の生協に対する意識や理解を分析する中で、「核」「先進部分」を重視し、この主体を少しずつひろげる取り組みです。組合員の理解や利用・問題意識の標準分布は下記の絵のようになります。(図Ⅰ)

これは常勤者のそれも同様であり、あらゆるものごとを有りのままに捉え、「先進に依拠し次第に中間層へ影響を及ぼし、全体の底上げを図る」上で、重要な主体形成論と言えるでしょう。
第三の柱は常勤者の主体形成です。私は長い間生協のトップマネジャーとして頑張ってきたつもりでしたが、一九九四年頃、藤田英夫先生の「組織改革研究会」に参加し、先生の「人を人として」の著書を精読する中で、それまでのマネジメントの間違いや弱さを痛感し、大いに反省しました。この研究会はその後「生協版」として展開され、滋賀の皆さんも参加されたと思いますが、いわて生協では百人ぐらいの幹部・上級職が参加し、おそらく延べ三千万円ぐらいの経費をかけました。そして、「いわて生協・常勤者仕事改革」が実践され、いわて生協の組織・運動・事業・経営の構造改革と確実な発展が図られました。
「仕事改革」の中身は、(1)「意識改革」=常勤者の仕事は何のために存在するか、それは組合員に喜ばれるため、地球環境への負荷をできるだけ減らすためにのみ存在する。その仕事が毎日、毎月、毎年継続するのは、そのレベルを昨日より今日、先月より今月、去年より今年と、少しずつ引き上げるためである。(2)「マネジメント改革」=モノとカネは徹底して管理するが、「人間」は管理しない。部下の成長は上長の仕事に対する熱い思いと部下を成長させたいという強い意志の結果である。指示命令ではなく部下の自主性、チームによる団結こそ力である。(3)「MD(マーチャンダイジング)改革」=MD(商品に関する総合的な政策)こそ、組合員と常勤者をつなぐ接点であり、その目的は「数値達成のため」ではなく、やはり組合員に喜ばれ、環境負荷を減らすことが目的である。
こうした「仕事改革」を常勤者の「血と肉」にすることこそ、私のトップとしての最大の仕事である、という反省であり決意でした。
第四の柱はもう一つの主体形成ともいうべき「協同組合のロマン・理念・九五年ICAメッセージ」を学び確信を持つ組合員・常勤者の育成です。「新自由主義・市場競争原理」は明らかなイデオロギーとして蔓延しており、私たち協同組合人もその論理に相当程度に「洗脳」され、スーパーとの競争に負けることへの異常な恐怖感、経営強化・発展のためには利潤目的の私企業の模倣が優先され、組合員を「顧客」として捉え、低価格での顧客吸引セールに明け暮れ、常勤者は予算達成こそ最大の仕事・責任という状況に陥ります。組合員組織(化)も、家庭班や基礎運営組織確立の困難性に負けて、供給高達成の手段としての「仲間づくり」、請負や派遣を最大限利用した個配事業の拡大で損益を合わせる経営がもてはやされてきました。
こうした時代において、「協同組合運動」の歴史やロマン・理念を繰り返して学び、特に一九九五年の「ICA声明」で確認された「定義」「価値」「原則」を深く学び実践することが、今こそ求められているのではないでしょうか。
個人も組織も厳しい環境に投げ出されると、「上向き・内向き・後向き」に陥ってしまいます。強いもの・大きなもの・権力や上部機関・規模の大きなものなどの動きや主張が気になり、ついつい「上向き」発想が強まります。また、負け組になりたくない、厳しい自己責任が問われる中で他人やほかの組織や運動など構っておれない、地域がどうなろうとまずは自分たちの組織・経営が大事だ!などという「内向き」志向が力を持ってきます。さらに、先が見えない時代、激しい競争時代に、新しい発想や展望が見つけ難くなり、無難にこれまでの成功事例、過去の延長線上の方針にこだわり、未来志向や展望を切り開くことを避けて「後向き」な発想が強まります。
私たちはこうした傾向と戦い「下向き・外向き・前向き」な発想を目指し、組織をこうした体質に変えることが、トップの責任であるということを、県連理事会やあらゆるところで強調してきました。厳しいくらしの組合員・生協現場で働く悪い労働条件の仲間、部下や組合員の思いと願いなど、「下向き」の状況把握と思いやり。地域で働く生産者や中小零細企業・そこで働く労働者、地域での諸団体・諸運動の状況や生協運動への期待や要求など、「外向き」発想でのネットワークや連帯・共生の可能性の模索。グローバリゼーションの中で「もう一つの世界」を求める人々の運動や二十一世紀を展望する世界的な歴史の流れ、中期計画運動への取り組みや、協同組合としてのあるべき・なりたい姿、生協のアイデンティティ・ミッションからの「前向き」発想など、今私たちの発想の転換が求められているのではないでしょうか。 | |